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Arts Initiative Tokyo [AIT]
日本オランダの協働アートプロジェクト
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REPORT 2023
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What is CAT?

多様な特性のある

子どもたちが出会い

ともに表現の場を

​つくりだしていく

 

コレクティヴ・アメイズメンツ・トゥループ[CAT](Collective Amazements Troupe「集団で体験する一人ひとりの驚き」の意)は、Arts Initiative Tokyo [AIT](以下、AIT)の「ディア ミー(dear Me)」プロジェクトと、ダウン症や自閉症の子どもたちを中心とした絵の教室「アトリエ・エー(atelier A)」、オランダの美術館「ミュージアム・オブ・マインド(Museum of the Mind)」、3者のコラボレーションによるアートプロジェクトです。

「Collective Amazements」は「集団で体験する驚き」、「Troupe」は「一人ひとり独立した表現者たちの集まり」を意味します。多様な特性をもつ子どもやユース、伴走者である大人が互いに好奇心を持って出会い、表現の場をともにつくりだしていくことを目的とした活動です。

このCATプロジェクトは、今後、複数年にわたり日本とオランダのNPO、市民団体、美術館、それぞれの活動の場で得た知見や経験を持ち寄り共有していく予定です。そして、多様な人々とのアート体験から生まれる表現や変化をアート・医療・教育のフィールドから多角的に考察し、その学びの意義を見出すことで、ゆくゆくはニューロダイバーシティ*を推進するアートプログラムへと発展させていきます。

 

*ニューロダイバーシティ:「神経多様性」を意味する、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)の2つを掛け合わせた言葉。「脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて互いに尊重し、その違いを社会の中で生かしていこう」という考え方。

About CAT 2023

アートを通じて

得た体験を

それぞれの日常へ

還元する

2023年は、オランダで実施されている音楽と瞑想を取り入れた表現ワークショップ「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」(→ 1|Mark to the Music)を日本でも開催。また、昨年度から取り組む美術鑑賞と創作のプログラム「インスピレーション・ツアー」(→ 2|Inspiration Tour)を継続するとともに、オランダで行われている多様な実践に学ぶフィールドワーク「リサーチ・トリップ」(→ 3|Research Trip)を行うなど、オランダと日本の実践をもとにそこに関わる人たちが相互に作用しあう機会をつくりだしました。

AITはこれからも、さまざまな取り組みをつうじてメンタルヘルスとアートを考えていきます。

 
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1

Project

アンビエント音楽と瞑想を取り入れた表現ワークショップ

Mark to the Music

Inspiration Program of Music and Spirit「Mark to the Music」

Overview

概要

心身を解放し、
軽やかで自由な

表現の場をつくりだす

 

マーク・トゥー・ザ・ミュージック(Mark to the Music)は、音楽を聴き、心を解放しながら、参加者それぞれが思い思いのかたちで表現するワークショップです*。


CATは、2023年12月16日に初となる日蘭コラボレーション版を下北沢・カトリック世田谷教会かまぼこ兵舎にて開催。マーク・トゥー・ザ・ミュージックのガイド役を務めるヨレイン・ポスティムス氏(ミュージアム・オブ・マインド メンタルヘルス・プログラム・マネージャー)を招き、アトリエ・エーにゆかりのある音楽家4名とともに、アンビエント音楽のライヴセッションとワークショップを行いました。

​参加者たちは、ライヴ演奏が生み出す音の振動から空気の流れを感じ、観る・創るだけでなく聴く感覚も楽しみながら、直感的に表現を探求していきました。静かな瞑想で緊張を和らげつつ、心や身体を解放して軽やかで自由な表現の場をともにつくりだしました。

*アムステルダムの音楽イベント「Amsterdam Dance Event 2022」で行われたアート・プログラムに端を発し、オランダのミュージアム・オブ・マインドが主体となって取り組んでいます。

Navigator

ナビゲーター

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ヨレイン・ポスティムス

Jolien Posthumus

「ミュージアム・オブ・マインド」マインドフルネストレーナー兼メンタルヘルス・プログラム・マネージャー

2017年よりオランダ・アムステルダムとハールレムを拠点に「美術館やアート・スペースでのマインドフル・プログラム」の研究と実践を行っている。そのほかオランダの文化セクターにマインドフルネスの実践を導入し、ヨーロッパ各地の美術館やギャラリーと協力し、講演活動も行う。トラウマやニューロダイバーシティに関連した実践を専門とし、ゴッホ美術館でも瞑想プログラム開発に関わった。

Artists

ライヴセッション参加アーティスト

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高野 寛

Hiroshi Takano

ミュージシャン

1964年生まれ。大学生の頃から当時は珍しかった宅録による創作を開始。1988年、高橋幸宏プロデュースによるアルバム「hullo hulloa」でソロデビュー。
2013年4月から京都精華大学ポピュラーカルチャー学部・音楽コース特任教授に就任、2018年4月〜2023年3月に同学部客員教授を務めた。

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藤村 賴正

Yorimasa Fujimura

ドラマー

筑波大学芸術専門学群を卒業後、古くからの友人たちで組んだバンド、シャムキャッツで2009年に1stアルバムをリリース。その後、地道でDIYな活動を続けながら活動の幅を拡げていったが、2020年に解散。現在は各所でサポートドラムをしつつレーベルTETRA RECORDSを運営している。

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齋藤 紘良

Koryo Saito

作曲家/しぜんの国保育園理事長

専門は子どもが育ち暮らし、老いて死んで次に向かうための環境や文化を考えること。保育施設の運営、500年続く祭りの創造、寺院の再興、映像番組への楽曲提供、雑貨と電子楽器を駆使したパフォーマンスなどを行なっている。発表音源に『MIRAGE』『narrative songs』(CD,spotify他)、著書に『すべて、こども中心。』(カドカワ)などがある。

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安永 哲郎

Tetsuro Yasunaga

ミュージシャン

エレクトロアコースティックデュオminamoのメンバーとして世界各国でライブツアーや音源をリリース。各種イベント企画制作をはじめ、外務省「日本ブランド発信事業」採択による南米での音楽ワークショップ、アルスエレクトロニカ、KAAT神奈川芸術劇場、金沢21世紀美術館でのプロデュースワーク等、音楽とアートにまつわる場の創生に関わり続けている。

企画 藤井 理花(AIT)

企画協力 赤荻 徹(アトリエ・エー)、安永 哲郎

Program

プログラム

Photo Gallery

フォトギャラリー

Photo by Isamu Sakamoto

Reflection

考察

音と光、そして優しさに包まれた時間

非日常の体験が新たな表現を生む

 

⾳楽と精神のインスピレーション・プログラム企画

「Mark to the Music マーク・トゥー・ザ・ミュージック」レポート

オランダの医療、芸術、科学の境界を横断する美術館である「ミュージアム・オブ・マインド(心の美術館)」と⽇本でダウン症や自閉症の子どもたちを中心とした絵の教室「アトリエ・エー」、そしてAITが協働し、多様な特性のある子どもたちと伴⾛者が互いに好奇⼼を持って出会い、表現の場をともにつくりだしていくプログラム「コレクティヴ・アメイズメンツ・トゥループ(CAT)」。2022年より活動をスタートしお互いの関係を深めてきた[CAT]が、2023年12月16日に、音楽と瞑想を取り入れた表現ワークショップ「マーク・トゥー・ザ・ミュージック(Mark to the Music)」を開催した。

 

本ワークショップは「⾳楽と精神のインスピレーション・プログラム」として[CAT]が企画したものだ。インスピレーション・プログラムというのは、彼らが行っている日常的な活動に「インスピレーション」を加えることで、新たな表現の場をつくりだすというものである…

上條 桂子

Keiko Kamijo

アートライター

フリーランス編集者。雑誌や書籍の編集執筆を行う。アトリエ・エーには、スタッフとして2013年頃より活動に参加している。

赤荻 徹

Tetsu Akaogi

2002年よりダウン症の子どもたちのサッカーチーム「ABLE FC(エイブル・エフシー)」のコーチを務め、2003年よりダウン症や自閉症の子どもたちを中心とした絵の教室「アトリエ・エー(atelier A)」を主宰。

アンビエントの即興演奏と子どもたちの表現、

数々の可能性に満ち溢れた時間

 

アトリエ・エーによる「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」レポート

教室でやるアトリエとはまったく違うものが始まるんだ、​とそのときになってようやく理解したのだった。

「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」ファシリテーターミニレポート

横須賀 拓

Taku Yokosuka

グラフィック・デザイナー。書籍などを中心に活動。アトリエ・エーには立ち上げ当初からスタッフとして関わる。

From Organiser

企画者より

本ワークショップの企画を立ち上げた当初、「障害や特性のある子どもたちが静かに瞑想したり、アンビエント音楽を聴いて表現するのは難しいかもしれない」という意見も出ていました。ところがイベントが始まると、ヨレインさんの穏やかな言葉にうながされ、子どもたちは自然と思い思いの瞑想ゾーンに入っていったのです。そして、さまざまな音に感覚を研ぎ澄ませながら、音楽と呼応するような非言語的で抽象度の高い、色彩に溢れる表現を次々と生み出していきました。

子どもたちは、意識的 / 無意識的に音や周囲の環境を感じ取って描くこと、空間に身を任せること、感情を開放することに圧倒的に長けています。こうしたワークショップで何よりも学びが多かったのは、他でもない企画者やファシリテーターの大人たちだったように思います。

多様な特性をもつ子ども・人々の感覚や技能がより発揮され、自由に表現できる場を、美術館やNPO、企業、市民グループなどがそれぞれの専門性や資源を持ち寄りながら意識的に創出していくことで、今後の学びの可能性はまだまだ広がるのではないでしょうか。

堀内 奈穂子、藤井 理花(AIT)

2

Project

自分の表現をさらにひろげる、美術鑑賞と創作のプログラム

Inspiration Tour

Art appreciation and creation program to expand our own expression

Part 1. Appreciation

鑑賞

みんなで作品に驚き、

それぞれが感じたことを

​表現につなげていく

 

「インスピレーション・ツアー」は、多様な参加者とともに美術館に出かけ、驚きと対話を通じてさまざまな芸術表現やできごとに出会い、インスピレーションを得て、自身の新たな表現を生み出していくきっかけをつくるプログラムです。オランダの取り組みをヒントに、2022年から継続的に実施しています。

 

2023年はアーティゾン美術館の企画展「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」とコレクション展を鑑賞しました。

ファシリテーターと参加者がグループになり、鑑賞の途中で発見したことや感じたことを言葉にしあったり、一人ひとりのペースに合わせてじっくり作品と向き合うことを大切にしながら美術館での時間を過ごしました。

Photo by Isamu Sakamoto

Reflection

考察

インスピレーション・ツアー前編:空間、作品、鑑賞者らとのセッションを通じて、アートを身体で感じる

 去る2023年10月28日。CATの取り組みのひとつ、障害のあるメンバーとともに美術館を訪れ、対話を重ねながら新たな刺激や発見を得る「インスピレーション・ツアー」が実施されました。アトリエ・エーのメンバー9名とファシリテーター9名が訪れたのは、アーティゾン美術館。少人数のグループに分かれて鑑賞したのは、石橋財団コレクションと現代美術家の共演(ジャム・セッション)を試みる企画の第4弾、「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」です。 

 「サンサシオン」とは、感情に至る前の感覚のことを意味するそう。まさに、自分の感覚というものを身体で認識するようなインスタレーションから、展示はスタートします…

小川 知子

Tomoko Ogawa

ライター/編集者

1982年、東京生まれ。雑誌を中心に、インタビュー、映画評の執筆、コラムの寄稿、翻訳など行う。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)がある。

Part 2. Creation

創作

鑑賞から創作へ

自由な時間から生まれる

​新しい表現の数々

美術館を訪れた翌週、いつものようにアトリエ・エーに集まり、創作ワークショップがひらかれました。「インスピレーション・ツアー」の小さな仕掛けとして、普段のアトリエ・エーの画材に加えて、大きな画用紙やローラーなどいろいろな新しい画材を用意しています。好きなものを選んで、自分の表現を形にしていきました。

創作ワークショップでは、美術館での経験がすぐに分かりやすい形で現れてくるわけではありません。美術館でみた作品や会話、気持ちを思い出して描いても、いつものように自由な絵を描いても、絵の具や紙など素材にとことん向き合ってもよい自由な時間であることを大切にしています。

Photo by Isamu Sakamoto

Reflection

考察

インスピレーション・ツアー後編:鑑賞体験がつなぐ、オリジナルでカラフルな創作時間

 

 アーティゾン美術館で実施したインスピレーション・ツアーを終え、まだ体験の余韻が残る2023年、11月5日のアトリエ・エー。色鉛筆やマーカーなどを用いて絵を描く大教室と、アクリル絵の具などの普段とは異なる画材を使って創作をする地下の工芸室に分かれ、約40名のメンバーが集まりました。インスピレーション・ツアーの参加者も、アーティゾン美術館での鑑賞体験からインスパイアされた作品を、自由に紙の上で表現します。

 「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」で、ポール・セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》を「嵐の中のマンション」と名付けていたまさかずさん。ポストカードを持参し、筆、ハケ、ローラーなどの画材を駆使して、青と緑の混じった美しい色を生み出していました。一方、ゆかりさんは、展示で見たイメージから連想し、カラフルなオリジナルの抽象画に昇華させます…

小川 知子

Tomoko Ogawa

ライター/編集者

1982年、東京生まれ。雑誌を中心に、インタビュー、映画評の執筆、コラムの寄稿、翻訳など行う。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)がある。

3

Project

ケアとアートにまつわるフィールドワーク@オランダ

Research Trip

Field work on care and art @ Netherlands

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概要

Overview

美術館から庭園まで。

多様な人々を巻き込む

​オランダの実践から学ぶ

協働先であるオランダの「ミュージアム・オブ・マインド」をはじめ、障がいのある人の活躍の場をつくる美術館や福祉団体を訪問。さらに、農業をつうじて障がいのある人や社会的弱者を支援する取り組みとしてヨーロッパで広がるケアファームなども視察しました。

とくに、子どもや若者の心をケアするアートの実践や、引きこもり傾向のあるユースが参加しやすい場づくりなどについて、ヒアリングと意見交換を行いました。

Destination

訪問先

藤井理花、堀内奈穂子(AIT)、西田友子

リサーチャー:

Reflection

考察

自分の人生、自分の生活は自分で決める

オランダ視察から見えてきたこと

今回の視察を通じて最も強く感じた大事な点は、「自分の人生、自分の生活は自分で決める」ということが一貫されていた点である。

 歴史的背景も文化も全く違う国であるため、単純に比較は難しいと思うが、現在の日本のサービスにおいて大きくかけている大事な点が特にオランダでは常に見られたことが決定的な違いであると感じた。

日本でも精神保健サービス利用において、措置から契約へとうたわれ、表面的には当事者がサービスを決定するという流れになっているが、実態は大きく異なっている。また自分を表現するという点においても、本来は表現が自由なはずだが、実際に自身の体験を絵にしたりすると「調子が悪い」と判断され、本人が希望していないにも関わらず薬の種類や量が増やされたり、入院治療になるなどしている…

西田 友子

Tomoko Nishida

精神保健福祉士

「生きづらさを抱えながらも自分らしく生きる」を大切にサポートさせていただいています。現在はクリニックや自治体でアウトリーチを行うなど訪問スタイルを中心に活動中。

2023年の活動を振り返るパブリックトークイベント

音楽と精神のインスピレーション・プログラムから考える多様な心と表現

 

Public Talk 2023

Diverse minds and expressions from the Music and Spirit Inspiration Program

1年間のプログラムを振り返り、関わった人がそれぞれの視点から取り組みを考察し深めるトークイベントを開催しました。


ゲストスピーカーとして、「ミュージアム・オブ・マインド」よりヨレイン・ポスティムス氏、「アトリエ・エー」より赤荻 徹氏が登壇。トーク前半では、オランダのヘルスケア分野で活動し、その知見を美術館のプログラムづくりに活用するポスティムス氏の視点や、瞑想を取り入れたアートのワークショップの理念をお聞きしました。また、ポスティムス氏が「アトリエ・エー」の個性豊かなメンバーとともに行ったワークショップの記録を紹介しながら、そこから得た気づきや発見について、赤荻氏、AITとともに振り返りを実施。トーク後半では、多様な人々との芸術体験が拡げる新たな芸術批評の可能性について、ディスカッションを行いました。

開催概要

オンライン・トーク

「音楽と精神のインスピレーション・プログラムから考える多様な心と表現」

日時

2024年 1月25日(木)19:00〜21:00

形式

オンライン

参加費無料/定員80名

*日英逐次通訳あり、UDトークによる日本語情報保障あり

 

ゲストスピーカー

ヨレイン・ポスティムス(ミュージアム・オブ・マインド)、赤荻 徹(アトリエ・エー)

 
 
 
 

General Review

by AIT

全体を振り返って

みる、きく、

あらわすことによる

心の遊泳

 

文・堀内奈穂子(AITキュレーター)

「『メンタルヘルス』という言葉からは、何か問題を抱えているようなネガティブな印象を受けがちですが、みなさん歯を磨くことで虫歯を予防しますよね。メンタルヘルスもそれと同じように日常的なコンディションの一つとしてケアしてみてはいかがでしょうか」

 

ミュージアム・オブ・マインドのヨレインさんは、CATのトークに登壇した際にそのように説明してくれた。

ミュージアム・オブ・マインドの二つの美術館の一つ「ドルハウス」は、オランダのハールレムで700年以上前から存在する元精神科病院で、隔離施設としても使われていた建築物を美術館として活用している。そこでは、精神科病院だった時の資料や当時の治療に用いられた医療器具と現代のアートの表現を共に展示することで、精神疾患にまつわるスティグマや、現代において「心」を考えることとはどういうことか、鑑賞者自身が自分の内面を探るような工夫が散りばめられている。

ヨレインさんは、そこで世界の多くの美術館ではまだ聞き慣れない「メンタルヘルス・コーディネーター」という役割を担っている。福祉の領域で働いた実績を持つ彼女は、「あらゆる人々が声を上げることができる場」を意識し、特に、メンタルヘルスとアートをつなぐ実践においては、以下の3つの観点でプログラムづくりを行っている。

 

  • Prevention 予防

  • In the time of need (ケアや支援を)必要とされるタイミングで届けること

  • Resilience レジリエンス

 

上記のようなキーワードにアートを介在させることで、プログラムの参加者はより自然に心の内面を表現し、時に音や感触など言葉だけに頼らない感覚による対話が生まれる。そうした一連の行為が結果的にメンタルヘルスにつながっているのだ。

そこで行われるのは「治療」ではない。「予防」や「レジリエンス」だ。

 

近年、世界の美術館において「アート処方」の実践が活発になり、カナダやベルギーでは、ストレスや鬱など、メンタルヘルスに不安を抱える患者に医者が美術館のチケットを処方する取り組みが行われ、注目されている。

いわゆる患者として診察・治療されるのではなく、ただ美術館の中に身を置き、じっくりと作品と向き合う。作品に没入することで、あらゆる感情の機微に気づく体験が生まれる。その時に脳では報酬系が刺激され、複雑な処理をしていると言われている*。そうした芸術体験は、人によっては心の健やかさを取り戻す一助となる。

 

AITが行うディア ミープロジェクトでも、2016年以来、あらゆる子どもたち、ユース、大人が混ざり合い「じっくりと観る」鑑賞プログラムを実施している。2021年度から開始したこのCATにおいても、アトリエ・エーに参加するダウン症や自閉症を含むさまざまな子どもたちから協力を得ながら、鑑賞プログラムはもちろん、ヨレインさんとの協働により、音や身体的感覚を取り入れた表現のワークショップへと発展してきた。

 

作品を観ること、そして表す行為は多くの場合、色や形、感触などからはじまるが、やがてそこには個々がこれまでに生きてきた経験や思考が、言葉に限定されないアウトプットで語り出される。それを「みて、きき合う」ことは、他者を知り、さらにそれに応答しようとする自分を探求する、心を遊泳するような体験だ。

そしてそれ以上に、他者と自分が存在する社会や時代、あるいはより大きな領域にまで想像力を飛ばす実験でもある。

 

そう考えると、あらゆる人々と行う芸術体験は、メンタルヘルスという言葉に集約されず、何よりも、作品やそれを判断する基準への新たな批評性を持ち、これまでの価値を転換し、更新していく「力」の一つとなるはずだ。

 

CATが目指すこれからの展開の一つとして、子どもやユース、さまざまな特性を持つメンバーが「参加者」としてだけではなく企画者やファシリテーターとしても関わる、「混ざり合う」チームをつくりたいと考えている。混ざり合うことは、時に混乱や驚きがあり、双方の寛容性が試される。それは同時に、現代の分断や分類化に抗う一つの方法にもなるはずだ。実際に、そうしたあらゆる心の振れ幅の中にこそ、芸術とメンタルヘルスを考える上でのより豊かな土壌があるのではないだろうか。

*カナダのモントリオール美術館では、2018年よりカナダの医師会と美術館の連携による「アート処方」の取り組みが行われている。https://www.mbam.qc.ca/en/news/virtual-prescription/

 

COLLECTIVE AMAZEMENTS TROUPE [CAT] 2023

主催:文化庁、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
協働団体:アトリエ・エー、ミュージアム・オブ・マインド

令和5年度 障害者等による文化芸術活動推進事業

「驚きをともに体験する、芸術と精神のインスピレーションプログラム」 

 

寄付・助成:資生堂カメリアファンド、SBI新生銀行グループ、オランダ王国大使館

協賛:ローランド株式会社、株式会社MOGU、リキテックス

 

企画:堀内 奈穂子、藤井 理花(AIT / ディアミー)

制作サポート:山口 麻里菜、和田 真文、大隈 理恵(AIT)

企画協力:赤荻 徹、安永 哲郎

CAT 2023 PROGRAM *順不同

 

Inspiration Program of Music and Spirit "Mark to the Music", December 16, 2023

ゲストナビゲーター:ヨレイン・ポスティムス(ミュージアム・オブ・マインド)

ゲストミュージシャン:高野 寛、齋藤 紘良、藤村 賴正、安永 哲郎

DJ:ネトルトン タロウ

日英逐次通訳:池田 哲

会場協力:カトリック世田谷教会

Inspiration Tour, October 28 / November 5, 2023

ファシリテーター 

横須賀 拓、赤荻 洋子、山口 洋佑、沖 真秀、加藤 紗希、ローツェ、西田 友子

サポート:永井 亮太(ローランド株式会社)、SBI新生銀行グループの皆さん*鑑賞プログラム

写真:阪本 勇 

映像:藤井 康之、竹内 卓彌

 

Research Trip to Netherlands_July , 2023

リサーチャー:西田 友子、堀内 奈穂子、藤井 理花

PUBLIC TALK "Exploring Diverse Minds and Expressions Through the Music and Spirit Inspiration Program", January 25, 2024

日英逐次通訳:池田 哲

日本語文字情報サポート:坂本 朋恵、我那覇 真紀、小林 博子(文織工房)

CAT 2023 website

制作:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]

イベントレポート:上條 桂子、小川 知子

編集・ウェブ制作:木下 悠

CATプロジェクト ロゴデザイン:株式会社サザランド

翻訳:池田 哲、直江 智子 

英文校正:ロジャー・マクドナルド

 

SPECIAL THANKS

アトリエ・エーの子どもたちやスタッフ、ご協力いただいたすべてのみなさん

 
 
 
 
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